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#05「ISO 9001とは」碓井 将夫 (HMS役員 | 元・流通科学大学 人間社会学部 教授)
ISO 9001について紹介します。ISO9001は、品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)とも呼ばれています。組織が製品やサービスを顧客に適切に提供し、存続し、成長するための経営の仕組みであり、世界標準の組織経営の規格です。
あらゆる組織がその事業から生み出した富を社会に還元し、その社会に生きる人々ための福利厚生に貢献し、その社会や経済の成長のために存在します。ISO9001の規格は、産業社会において組織により生産される製品やサービスの品質の保証、利用者である顧客満足の提供を前提に構築されています。
QMSは、そのシステムの組織に合わせた展開方針や、目標設定、運用方法、各プロセス、文書化や記録の仕方についてまとめたものです。QMSでは、製品やサービスの生産方法やそれらの提供方法を組織内で規定するための一連のルールを定義します。QMSは、製品やサービスの品質保証、顧客満足を目的に、組織の製品あるいはサービスに生産・提供プロセスに合わせて作成なければなりません。ISO 9001では、QMSを効果的に運用し確実にするために必要な要素を見落とさないための一連の指針と規格の要求事項が提示されています。
規格には、具体的には、事業のプロセスが以下の要素毎に示されています。組織は、顧客のニーズをつかむため、顧客情報を獲得し、そこに事業のリスクと機会を見極め、マーケティングとイノベーションから顧客が必要としている新しい製品やサービスを開発し、適切な価格で提供します。そのため、規格では、組織の経営を適正な管理のもと効果的に行い、また製品やサービス、組織の運用に改善や変更が必要な場合は速やかに是正、変更処置を施し、その有効性を検証し、さらに経営資源の生産性を高め、製品やサービスを顧客に提供する一連の仕組み提示されています。なおかつ、それを可能にするために、組織全体におけるそれぞれの運用のプロセスがプロセス毎に項番として示され、さらに、品質保証、顧客満足、及び組織の運用及びその展開状況をプロセス毎に監視し、改善し持続的成長につなげるためPDCAを不断に展開することです。また、これら、品質保証、顧客満足、生産、監視、改善の状況が、ISO9001の要求事項により仕組みが確実に実施されるよう規格の項番により明示されています。
ISO 9001は、国際標準化機構(ISO: International Organization for Standardization)が策定する、品質マネジメントシステム(QMS)のための国際規格です。ISO規格の原点は、英国で1985年に第三者機関による不適合製品の減少を目的に発足した認証制度が始まりです。それがヨーロっパへと広がり、さらに全世界へと広がりました。また、英国での発足当時、米国では、MIL規格(米国防総省が制定した米軍の資材調達に関する規格であり、顧客の供給者に、顧客要求に適合した製品製造のシステム構築と監査を要求した規格)が存在しており、これら両者の規格が併合され、1947年に国際標準化機構が設立(本部は、スイス・ジュネーブ)され、1987年に品質システムに関する国際規格として、ISO9000シリーズ(9000,9001,9002,9003,9004)が誕生しました。
中でも、ISO9001品質マネジメントシステムは、その後に展開されることになった環境(ISO14001)、情報セキュリティ(ISO27001)、労働安全衛生(ISO45001)、食品安全(ISO22000)、事業継続(ISO22301)、航空宇宙(ISO9100)の中心となり、現在ISOにより展開されている全規格の背骨というべき規格です。2015 年に更新されたISO 9001の規格を、ISO9001:2015といいます。更新版の改定及び公表のためには、国際標準化機構の加盟国の過半数の同意を得なければなりませんでした。さらに、先に示しましたが、ISO 9000グループにはISO 9001の要求事項の運用を支援する文書があります。例えばISO 9000では、ISO 9001の背景となる基本的な考え方及び用語が定義されています。また、9002(9003は統合された)では、9001の適用に関する指針、ISO 9004では、ISO 9001による組織の持続的成功を達成するための指針が書かれています。
ISO 9001が重要な理由
先に記しましたが、ISO9001:2015は、組織の適切な経営を保証するための国際規格で、業種を問わず組織が品質マネジメントシステムを構築し、実施、維持を行うためにあります。組織が属する業界やその規模の大小を問わず活用できます。組織が社会に提供している製品やサービスの品質保証や顧客満足の提供やそれらの改善のため、組織内で適切な組織運営を行う上でその基盤となる規格です。そのため、組織が、取引先の選定の基本条件としてISO9001規格の認証資格の取得を採用しているところが多くあります。特に、いまや組織にももちろんよりますが、国際間取引においては必須要件とされているところが多いです。
組織がISO9001の国際規格を取得しますと、ある取引を行いたい組織が、被取引先組織の適否を見極めるために、その運営プロセスを直に監査を行う必要がありません。それは、ISOがその組織を第三者認証機関として保証しているからです。このことから、ISO9001は、多くの組織が市場の競合者間で信頼の優位性を確保するための不可欠なものとなっています。さらに、組織は、ISO9001の7つの品質マネジメントの原則を基本として品質マネジメントシステムを構築し組織経営を行うことにより取引先に製品やサービスの安全を担保することができます。参考まで、7つの品質マネジメントの原則とは、顧客重視、リーダーシップ、人々の参加、プロセスアプローチ、改善、客観的事実に基づく意思決定、関係者管理のことです。
事実、ISO9001は、ISO規格に属する全てのマネジメントシステムの中でも、その基盤をなす規格です。現在、航空宇宙・防衛分野の規格AS9100、情報通信分野の規格TL9000,自動車業界分野の規格ISO/TS16949と産業分野とそれぞれの産業発展の歴史から製品製造やサービスの提供において個々の規格が存在し、特有の要求事項があります。これらそれぞれの産業分野の業界標準の規格では、ISO規格に適応させるためそれぞれの産業分野の規格の特徴を生かしながら連携活用されています。
組織におけるISO 9001規格構築のメリット
組織におけるISO9001の構築のメリットは、組織の規模の大小に関係なくISO9001を構築・運用することにより製品やサービスの保証、顧客満足の向上のみならず経営資源の生産性の向上に大きく貢献します。
具体的には、対外的には、組織のイメージ向上があります。組織がISOの公式認証機関からISOの適合認証を取得していることを知ることにより、取引先や顧客が認証を取得している当該組織が取引先や顧客の要求に適切に応え、また改善や是正を適切に行えるシステムを構築・運用していると理解されます。これにより、取引先や顧客にとって確実、安全に契約を履行できる組織として信頼性が向上します。取引先や顧客への製品やサービスの品質保証や顧客満足の提供は、ISO9001の運用の原則であり、かつ目的です。これらが確実になされることにより、新たな顧客の獲得につながります。
さらに、対内的には、包括的なプロセスという考え方からISO9001のプロセスアプローチという手法を活用することにより、組織内の個々のプロセスの運用のみならず、プロセス間の相互作用や関係性を俯瞰・見える化できます。これにより、組織の強みや弱みが明らかになり、改善や是正、変更・強化が必要なプロセスや、組織の経営資源の最適配置が可能になります。また客観的事実に基づく意思決定の手法からISO9001のQMSの構築・運用から成果を得るためには、客観的事実に基づく意思決定の手法を用いることが必要です。客観的事実を基に意思決定を行うことは、課題とその対策のための経営資源が明確になり、効果的に課題解決が行われることになり、意思決定の有効性、効果性、効率性が向上します。
品質マネジメントの7原則
ISOでは、ISO9001の基本理念を理解するために、以下のように「品質マネジメント7原則」を定めています。どのような内容か、紹介します。
原則1:顧客重視
組織の最終目標は「顧客満足」です。顧客満足の向上に貢献するためには、組織は現在及び将来るにおける顧客のニーズを理解し、顧客から求められる要求を満たし、顧客の期待のさらに上まわる努力をする必要があります。顧客満足は、組織を存続させていくための最終目的であるものです。
原則2:リーダーシップ
組織におけるリーダーは、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、有効性の継続的改善を行う全ての責任を負う存在です。トップマネジメントは組織の方針を明確にし、それを組織や顧客に伝達する必要があります。また組織内の人々が積極的に参加したくなるような環境構築が求められます。
原則3:人々の積極的参加
QMCが有効に機能し、組織の目的である製品やサービスの品質保証、顧客満足という成果を得るためには、組織のリーダーだけではなく組織のすべての人が積極的にかかわることが不可欠です。そのために、リーダーは、組織の人々が最大限の成果をあげられるように、必要な権限を割り当てることや、チームメンバーのモチベーションを高めることもリーダーの重要な仕事です。
原則4:プロセスアプローチ
組織内の仕事の流れを仕事単位で管理するというものです。QMCにおける有効性の向上には、組織活動のプロセス単位での管理が必要です。各プロセスの関係を把握して、首尾一貫したシステムとして機能させることが重要です。ISO9001では業務単位、つまり各プロセスで管理を行い、「無駄な作業や重複が発生していないか」ということを再確認し、品質の向上、生産性の向上のために継続的に改善していく必要があります。一般的に、「営業(受注)」→「設計・開発」→「材料の調達・外注」→「製造・サービス提供」→「製品検査」→「不適合への対応・是正処置」と業務の工程をプロセス毎に分解し、その相互関係性を考えるという方法です。
原則5:改善
顧客の期待に応えるために、組織は不断に「製品やサービスの品質向上や組織運営品質そのものの向上」ということを考え、QMCを改善していく必要があります。問題発生に関係なく、順調なときにこそ、より良くする方法がないか考えることがとても大切です。
原則6:客観的事実に基づく意思決定
QMSの品質向上のためには、データや情報を分析・評価することで得られた「客観的事実」に基づく意思決定が必要になります。意思決定は、経験や勘といった曖昧なものにより経営を行うのではなく、数値やデータを活用して確かな根拠のもとマネジメントシステムに改善を行い、そのデータを蓄積・分析し課題を抽出し解決していくことで、また是正を行い標準化することにより確実に目標達成を行うということです。
原則7:関係性管理
製品やサービスの品質保証、顧客満足という目的を達成するためには、自社のプロセス管理だけではなく、仕入れ先や外注先などとも含め、利害関係者の全ての人々が協力する必要があります。のため相互に良好な関係を築き、協力して取り組むことが大切です。そうすればよりよい製品・サービスが創出され、結果的に顧客満足度の向上につながることになります。