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#06「日本が直面しているオーバーツーリズムについて」角谷 賢一 (HMS役員 | (株)CRIO 代表取締役)
2019年の12月に、中国で新型コロナウイルス感染症が報告されてから、約4年が過ぎました。当時、対面型サービスの代表格であった観光業は多大な影響を受け、多くの企業が赤字経営、倒産を余儀なくされました。しかし、昨今では、全国旅行支援やインバウンド需要の増加により、感染防止対策を行いながら社会経済活動を維持する風潮に舵が切られ、観光業にも希望が見えてきました。特に、インバウンドによる需要増加の効果は大きといわれています。
こうした回復への兆しを維持するために、今のうちに勘案しておけなければならないことがあります。それが「オーバーツーリズム」への対策です。「オーバーツーリズム」とは、観光地に対してキャパシティ以上に観光客が押し寄せ、観光地の市民生活や自然環境に負の影響を与え、それにより観光客の満足度も下がることを指します。観光客の満足度が下がれば、観光客数の減少につながり、ビジネスにも悪影響を及ぼします。さらには、文化遺産や自然などの観光資源そのものが損なわれ、その地域における「観光」そのものが成り立たなくなってしまう危険性もあります。政府の動きとしては、観光庁が2018年に「持続可能な観光推進本部」を設置し、観光公害に関する実態調査を行いました。このことからも日本において、「オーバーツーリズム」は看過できない問題になっていることが分かります。このような問題に対して、海外では、行政による観光客の制限を実施した国もあります。しかし、それでは地域の経済を停滞させてしまう可能性があります。では、「オーバーツーリズム問題」を解決しつつ、観光業を盛り上げるにはどうすれば良いのでしょうか。
解決の糸口は、「分散」にあるのではないかと考えています。そこで重要となるのが、「時間の分散」と「場所の分散」の2つであります。
まず一つ目の「時間の分散」とは、平日と休日、早朝と日昼帯などの旅行の需要の偏りを分散させることです。観光庁の調査によると、日本の旅行量は、8割以上が大型連休を含む休日に集中しています。そのため、観光事業者は休日の旅行需要に合わせた設備投資にすると、赤字に陥ってしまい、平日に合わせた設備投資にすると、休日の旅行需要を支え切れないという問題に頭を悩ませています。この現状は、政府も認識しており、平日旅行に対する支援を手厚くしたり、あるいは企業の有給休暇の取得を推進したりしています。また、観光事業者による平日サービスの充実も効果的であるといえるでしょう。平日の観光は、特に宿泊業においては、休日と比較し価格優位性があり、ここに平日限定のサービスを拡充することで、平日の観光客誘致の手段の一つとなるのではないかと考えます。このように、官民一丸となって、旅行需要の偏りの是正を進めていくことが必要といえるでしょう。
また、二つ目の「場所の分散」も重要といえます。現状では、観光客の代表的な観光周遊ルートである「ゴールデンルート」において、旅行客が集中し、その他の都道府県との地域格差が問題になっています。そのため、今後は、「ゴールデンルート」だけではなく、近隣エリアとともに対策を行い、近隣エリアも観光地としての魅力を強化させ、日本の多様な観光地の魅力を発信し、さまざまな地域に訪れてもらう必要があるといえるでしょう。また、外国人観光客においては、リピーターの獲得も重要といえます。これは、「ゴールデンルート」の観光地を訪れる外国人観光客が多い中で、日本への訪問数が増加するほど、地方に訪れる割合が高くなる傾向があります。このようなことからも、一つの地域に集中する事態を解消する取り組みが必要になるといえるでしょう。
このような現状から鑑みると、「オーバーツーリズム」の問題は、根深く複雑で、観光事業者だけでは解決できないことがほとんどといえます。しかしながら、今後の日本経済の発展において、成長分野の一つである観光業を推進していくことは、都市間競争の優位性にも影響を与えると考えます。
ぜひ、この機会に「オーバーツーリズム」の解消に向けて、何か取り組むことができないかを考えてみてはいかがでしょうか。