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#08「自由亭と草野丈吉 」髙田宏 (HMS役員 | 大阪学院大学 経営学部 教授)
大阪初のホテルは、1868(明治1)年(※1)開業の「自由亭」です。場所は、現在の西区本田一丁目の木津川沿いだといわれています。このホテルを開業したのが、長崎出身の草野丈吉。草野は長崎出島のオランダ総領事付きのコック兼洗濯などの雑用係をつとめ、長崎の地に日本で初めて本格的な西洋料理店「自由亭」を開業させています(※2)。
なぜ、長崎で西洋料理店を営む草野が大阪初のホテルを開業したのか。後藤象二郎、五代友厚(当時は才助)、山内容堂など、幕末・明治維新でお馴染みの方々が関わっていました。長崎で草野の西洋料理を贔屓にしていたのが、後藤、五代。その縁で、1868年に大阪の土佐商会に招かれ、そこで山内容堂の食事番などを務め、容堂公の寵愛をうけたそうです。そして、日本が開国となり大阪も開市・開港が決まっていましたので、外国人の泊まることができるホテル建設が必須となりました。場所は川口居留地のすぐ隣接地が選ばれました。当時大阪府知事であった後藤、外国官権判事だった、五代が長崎での縁で、草野を指名したとのことです。草野は西洋料理だけでなく、オランダ総領事に付いて、江戸などにも同行していましたので、「西洋人」の生活習慣を熟知していたことが、大きな要因となったものと思われます。
自由亭は、その後1881年(明治14)に中之島、今の東洋陶磁美術館付近に移転します。これは、川大阪港、川口居留地が推進の関係で大型船が入らないため、貿易には不向きとみなされ、衰退したためと考えられています。残念ながら、西区時代の自由亭の室数、レストラン概要など詳細な記録は残っておらず、その姿を明確化することが、今後の研究課題となっています。
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※1 この時期のことですので、場所も確定している訳ではありませんし、開業年は1869年(明治2)説もあります。
※2 自由亭より早く、函館にロシア料理を基にした西洋料理店があったとの説もあります。