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#14「仕事の習慣」右京 幸雄 (HMS役員 | 元・学校法人辻料理学館 経理担当部長)
「この件について統計資料を作ってほしい」「この企画について提案書をまとめてほしい」と頼まれた場合、皆さんならどうされるだろうか?過去に似たような事例があるのならば、それをアレンジすれば難なく出来上がるだろう。ところが、それが全くの新規の案件であったならどうだろう。参考にするものがほとんどない、一から自分の頭で組み立てないといけない。そんな状況の時、決まって思い出す言葉がある。19世紀スイスの哲学者、法学者、著述家、政治家でもあったカール・ヒルティの言葉だ。少し長いが引用してみる。
『さてここに、われわれが習慣的な勤勉を身につけるのを容易にする二三の、ちょっとしたこつがある。それは次ぎのようなものである。まず何よりも肝心なのは、思いきってやり始めることである。仕事の机にすわって、心を仕事に向けるという決心が、結局一番むずかしいことなのだ。一度ペンをとって最初の一線を引くか、あるいは鍬を握って一打ちするかすれば、それでもう事柄はずっと容易になっているのである。ところが、ある人たちは、始めるのにいつも何かが足りなくて、ただ準備ばかりして(そのうしろには彼等の怠惰が隠れているのだが)、なかなか仕事にかからない。そしていよいよ必要に迫られると、今度は時間の不足から焦燥感におちいり、精神的だけでなく、ときには肉体的にさえ発熱して、それがまた仕事の妨げになるのである。』ヒルティ著・草間平作訳、『幸福論(第一部)』岩波文庫1982年24ページ
“一度ペンをとって最初の一線を引く”今でいえば、さしずめEXCELなら、とにかく最初のセルに何でもいいので数字を入力してみる、といったところだろうか。関連資料を集めるのはあとからでいい。とにかく思いつくままセルに数字を打ち込んでいく。そうするうちに、だんだんとゴールの形が見えてくる。案ずるより産むが易しとはこのことであろう。 メールに返信しなくてはいけないとき、どう言えば相手に理解してもらえるか、あれこれ言葉を選んでからではなく、まずはキーボードに向かって「いつもお世話になっております」と始めてみる。すると不思議なことに、キーボードに触れている指先に脳みそがあるのではないかと思うほど後に続く言葉がすらすらと出てくることが何度もあった。 とにかくペンと定規を取り出して直線を一本引いてみる。それで仕事の8割は終わったも同然である。