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#10「富裕層を迎える人材の準備はできているか...」森重 喜三雄 (HMS役員 | 大阪学院大学 経営学部 教授)
新型コロナウィルス感染症の位置付けも5類感染症に移行し、ようやく日常が戻り、2023年度訪日外国人数は、コロナ禍前の2019年の8割に回復しました。欧米の富裕層の観光客も増えています。そんな中、政府は訪日外国人の受け入れ拡大に向けて「日本各地に世界レベルのホテルを50カ所程度新設することを目指す」と述べ、具体的には外国人富裕層向けの「スイートルームを多く備えたホテル」を増やすべく、「ホテル整備に財政投融資を活用し、日本政策投資銀行による資金援助を行い、上質な宿泊施設の開発促進事業等の施策を実施し、ラグジュアリーホテルも一挙に増えています。
しかしながら…富裕層をもてなす人材は十分でしょうか?実のところ観光業、特にホテルは、コロナ前からも人材不足に悩んでいます。背景には、いろいろな原因がありますが、人材不足に悩んでいるホテルでは、どこを重点的に見直していけばよいのでしょうか。
・自ホテルの採用状況と離職率の確認。
・人手と業務量のバランスの確認。
・採用したいターゲット層に望まれる待遇内容。
・従業員が抱えている具体的な不満の把握。
これらの人材不足の問題点を具体的に把握したら、運営側がそれらを解消する確固たる意思を持つことが重要です。従業員の離職の原因となっていると見られる課題や労働環境を見直さずに採用を続けても、離職率の低下は期待できません。運営側が労働環境を整備し、時には大きな改革も恐れない覚悟を持っているかどうかも、人材不足解消には必要不可欠と言えるでしょう。従業員の能力や労働状況を正しく評価・反映した給与を提示できるよう、見直せるところは積極的に見直していく。その際、人事評価は客観的に行うことができるよう、細やかな取り決めが必要です。
ライフスタイルの変化に合わせた福利厚生の見直しも重要です。そして、人間関係が良好であり、仕事に関する悩みや疑問等も気軽に相談できる職場環境であれば安心して働きつづけるでしょう。働き方の多様性に合わせた環境整備や、キャリアアップに向けた教育制度が充実していること等は、従業員が長く働いてくれるために必要な改善です。従業員のスキルアップも重要な鍵となります。多くの従業員がスキルアップをすれば、業務の効率化や労働生産性の向上が期待できます。社内研修の充実化や、外部講師を招いた講習の定期的な開催といった、教育への投資も必要です。また、ホテル業でも業務や職場環境のDX化を推進すると、従業員はコア業務に集中して取り組むことができ、労働生産性の向上や勤務時間の軽減、定着率の向上等が期待できます。
富裕層を迎えるにあたって忘れてはならないのが、ソフトの強化です。国際感覚と語学が堪能で、ホスピタリティマインドのある人間的な魅力を兼ね備えた感性の高い人材の、雇用と育成・維持が急務なのではないでしょうか。